日経生活面記事

(5/10)女子大生中心に強まる専業主婦願望――優雅に趣味楽しみたい、仕事と家庭の両立難しく

 女子大生を中心に、若い女性の間で専業主婦を夢見る人がじわりと増えている。あこがれは料理や掃除など家事をこなしつつ、お花など趣味も楽しむちょっぴりゆとりある生活。「くたくたになるまで働き、趣味も持てない」キャリアウーマン的生き方はしたくない。バランスのとれた働き方が難しい今の社会が、彼女たちをそんな気分にさせるのか。

 「最近、受講生にアンケートをとったら、半分は専業主婦希望だった」。都内の私立女子大でジェンダー論を教える教授の話だ。「以前は社会に出る意欲を持ってもらうため『多様な生き方がある』と示せばよかったが、最近は『リストラ懸念もあり、夫だってどうなるか分からないのだから』と直球でアドバイスしないといけない」と学生気質の変化を明かす。
 慶応大4年のA子さん(23)が思い描くのは「卒業後すぐに結婚し25歳ぐらいで出産。料理を作って夫の帰りを待ち、フラワーアレンジメントなども楽しむ」生活。
 すでに大手企業から内定をもらったが、子どもができたら辞めるつもりだ。そのわけは「キャリアウーマンは趣味の時間が持てず、本当に豊かな生活は送れなさそうだから」。最近、頻発する少年犯罪のニュースをみるにつけ、なるべく子どものそばにいたいという思いも募る。「自分にとっての自己実現は仕事よりも子育て」とA子さんは言う。
 昨年、学習院大を卒業し現在、銀行に勤めるB子さん(24)も、3年ぐらいで辞めて専業主婦になりたいと考える一人。目下、年収700万以上の男性が参加するお見合いパーティーなどに顔を出し、経済的に安定した結婚相手を探している。「(若さの)価値が残っている今のうちに頑張っておきたい」

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 こんなデータがある。内閣府が2004年秋に実施した調査だ。年齢別に「女性が職業をもつことについて」の考えを聞いたところ、20代女性は「ずっと続ける方がよい」が44.9%と最も多かった一方で、「子どもができるまで」、「結婚するまで」と答えた人もそれぞれ10.7%、6.7%と70歳以上を除く他の年齢層より高かった。
 データから読み取れるのは、高まるキャリア志向の一方で、専業主婦志向も台頭しているという二極化だ。家族社会学が専門の山田昌弘東京学芸大教授は「ここ5、6年で従来、キャリアを目指す女子学生が多かった大学でも専業主婦願望が強まり始めた」とみている。
 雇用の流動化やなお続くリストラ懸念などから、夫の収入だけに頼るのはリスクが高まっているいま、なぜなのか――。「労働時間が長くなりバリバリ仕事をするのは大変なうえ報われない、というイメージが強まっているのが一因」と山田教授は考える。「今の若い世代は『ラク』がキーワード。社会に出て活躍することにさほど希望が持てない追い込まれた状況下で、専業主婦に夢を見いだしているのでは」というわけだ。
 女子大生側の心理の変化だけではない。専業主婦に対するイメージの変化もあるらしい。
 「最近の女子大生の母親世代の中には、自分の趣味や海外旅行などを楽しんでいる専業主婦も少なくない。おまけに雑誌を開けば、高級住宅地に住み、昼はレストランでランチを楽しむセレブ主婦を目の当たりにさせられる時代。“ガラスの天井”がある社会の現実より、専業主婦の方がずっと楽しく映るのだろう」。立正大の宮城まり子助教授(心理学)はそう分析する。
 「自己犠牲」や「所帯やつれ」といったネガティブな専業主婦像は、最近の女子大生の間ではめっきり薄れている。

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 働き続けるうちに、気が付けば「30代以上、未婚、子なし」の状態に。こんな「昨今の『負け犬』論争が追い打ちをかけた」と精神科医の香山リカさんは指摘する。実際、先のA子さんやB子さんも「負け犬」という言葉がメディアをにぎわすようになってから一層、「早く結婚し、家庭に入るのが幸せでは、と考えるようになった」と打ち明ける。

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 だが、現実は甘くはない。社会からの疎外感から行き場をなくし、精神科クリニックの扉をたたく40代の専業主婦が目立つからだ。
 男女平等の教育を受けてきたのに、家庭では嫁としての役割も求められる。子育てが一段落し、仕事をしたいと思っても限られた職しかない。夫にも不満がたまるが、一人で暮らす自信もない。そんな葛藤(かっとう)を抱える専業主婦はごまんといる。
 「楽に見えるからと専業主婦を選び、後でひずみが出る人もいるのでは」と香山さんは若い女性の専業主婦願望に警鐘を鳴らす。
 バランスのとれた働き方でキャリアを積むのが難しい状況は社会にとってもマイナス面が大きそうだ。
 早稲田大3年のC子さん(20)は大学院に進むつもりだが、「自分には両立は難しそう」という理由で「結婚したら専業主婦になりたい」という。
 宮城助教授は「環境が整わないために能力のある女性が社会に出ないのはもったいない話。働き方の見直しとともに、中学、高校から女性としてのキャリアプランについて考える機会も作るべきだ」と指摘した。
[日本経済新聞]

 

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