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遷延性意識障害、または植物症という病気をご存じだろうか。脳卒中や交通事故で脳に障害を負い、長期間寝たきりで、何も認識できないように見える患者のことだ。医療の進歩が脳障害の救命率を向上させる裏側で、意識障害の患者が急増している。しかし、患者の治療や在宅療養を支援する体制は未整備だ。患者の家族らは全国組織を設立し、国への支援要請に立ち上がる。
「入院できる病院がない。患者は家族任せ。国は我々に目を向けようともしない」。近く発足する全国組織「全国遷延性意識障害者・家族の会」の桑山雄次代表は国の無策を厳しく批判する。
9年前、二男が交通事故に巻き込まれ意識障害になった。病院では3カ月経過するたび、退院か転院を迫られ2年ほどベッドを転々。今は自宅で一緒に暮らしながら、二男の回復を願う。家族の会のメンバーの多くは、そうした病院漂流を経て在宅療養に入るという。
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一般の病院は、経営の視点から意識障害患者の長期入院を避けている。意識障害の患者には確立した治療法がなく、ケアはたんの吸引や感染予防などが中心。手術や施薬の積極的治療はあまり行われない。手間はかかるが、収入になりにくいため、入院期間の抑制に動く。意識障害の専門病院など、患者が安心して入院できる施設はほとんどないのが実情だ。
患者数は急増している。日本意識障害学会の紙屋克子会長は「国内の意識障害患者は、現時点で4万人を超える」と予想する。数年前は東北6県の調査などから全国で1万5000人程度と推定されていたから、2倍以上に増えたことになる。脳卒中や事故被害者の救命技術の進歩が主因だ。
家族の会では当面、患者の総数を把握するための全国実態調査と、在宅患者のたんの吸引をヘルパーにも認めるよう、国に求めていく。特にたんの吸引問題は、患者の家族を支援する上で、欠かせない課題だ。
「息子のたんの吸引で、私は7年間、2時間続けて眠ったことがない」。意識障害の長男を在宅介護している有馬志佐子さん(63)はこう話す。
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意識障害患者の多くは、たんを自力で排出できない。窒息を防ぐため、のどに器具を入れ吸引するが、その行為は医師や家族以外に認められていない。有馬さんは夜も1、2時間ごとに吸引。仕事に出かけても、「ヘルパーに呼ばれたら、帰宅して吸引しなくては…」とため息をつく。
既にALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者には、ヘルパーによるたんの吸引が認められている。厚生労働省は「今月から、ALS以外の疾患についても容認するか議論を始めた」としているが、対応の遅れは否めない。
医学界では植物症は死を目前にした状態と考えられてきたが、その常識も崩れた。独立行政法人の自動車事故対策機構(東京・千代田)が開設した植物症患者専門病院、千葉療護センター(千葉市)では、開設以来20年間に入所した117人のうち、院内で死亡した患者は12人。他人と意思疎通できる状態に回復した患者は少なくない。
「閉じたままのまぶたを開けてあげた途端、意識があることを視線で伝えてきた患者もいる」。岡信男センター長は、植物状態の患者の相当数は神経の異常や筋力低下で意思を伝えることができないだけと指摘する。
19年前に交通事故で植物状態になったと判定された藤井正樹さん(35)は、社会復帰の実例だ。体は不自由だが、透明の板に書いた50音を視線で追うことで、向かい合った人と会話できる。
母親の藤井恵三子さん(61)は「私が意識があると主張しても、医師が認めず、リハビリが遅れた」と悔やむ。医師が意識があると認めたのは、事故から6年目だった。
意識障害患者の治療で実績を上げてきた、藤田保健衛生大学病院の神野哲夫院長も、回復の可能性がある患者を早く見つけ、社会復帰させるための専門施設を拡充することが必要と訴える。
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藤井正樹さんに直接話しを聞いてみた。
――意識を回復したのはいつですか。
「入院直後から意識はあった。でも、伝えることができなかった。病院で一生暮らすと思った」
――お母さんと再び会話できた時、何を話したのか。
「これから生きていくのは大変だと」
――社会に対して何を望みますか。
「お母さんともう少し楽に暮らしたい。それだけだ」
家族の会は、31日に設立総会を開催。来月1日、実態調査などを求める要望書を、厚生労働省に提出する。
[日本経済新聞 夕刊]
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