日経生活面記事

(6/24)生活支援の成年後見人、注目される社会福祉士――専門知識が魅力

 判断能力が衰えたため、契約当事者になれない人の代行をする成年後見人に、社会福祉士が注目されている。財産管理が主な役割のため弁護士らが就くケースが多いが、介護など身上配慮のニーズが増えてきたからだ。まだ少数だが、福祉の専門家として活躍しつつある。

 「どうですか、元気ですか」――。
 社会福祉士の山田隆司さんが特別養護老人ホームかさはら陶生苑(岐阜県笠原町)を訪ね、入居者のAさんに声をかける。山田さんは、昨年から痴ほう症のAさんの後見人になった。車いすでホールに出ていたAさんとかがみ込んで話をする。
 「施設に事前に知らせず突然行く。そうしないと普段の生活が分からないでしょう。昼間はベッドから離れているのを確認するのも後見人の役目」。次いで、Aさんの介護記録に目を走らせる。こうしてAさんの日常生活を見守り、虐待などがないか目を光らせる。
 山田さんは、昨年10月に発足した特定非営利活動法人(NPO法人)東濃成年後見センターの事務局長。6人の高齢者の後見人をしている。
 成年後見人はもともと遺産分割や不動産処分など財産管理が主な役割だ。だが、4年前の介護保険施行と同時に、民法改正で新しい成年後見制度ができた。高齢者が適切な介護が受けられるように、身上配慮が重要な活動として加えられた。
 山田さんのように、入居施設で契約どおりに日常生活が維持されているか、本人の不利益になっていないかをチェックするのも大きな役割だ。
 だが、長年、財産管理が後見人業務と見られてきたため、各地の家庭裁判所は、家族を後見人に指名することが多く、身寄りがない場合も弁護士や司法書士など法律の専門家を指名しがちだ。
 「家族が後見人になると、介護の社会化という介護保険で確立した考え方にそぐわないし、法律家も介護保険サービスに精通しているとは言えない」と言う声が介護現場では強い。
 そこで新たな成年後見人として注目され始めたのが社会福祉士だ。利用者の権利擁護の立場から福祉全般にわたって助言、指導するのが本業で、17年前に国家資格として制度化された。
 在宅の要介護高齢者をみる場合、社会福祉士が後見人になると、介護保険のケアマネジャーでは及ばない、生活全般に立ち入ることができる。
 例えば、在宅介護が限界に来て施設などに入らざるを得ないとき、要介護者の資産や収入を調べ、それに目を配りながらケアの上からも本人に最適な施設を選択できるのが後見人。ところがケアマネジャーの職務は、介護サービスの選択に限られ、資産把握にまでは踏み込めない。後見人に指名されることもほとんどない。
 「70歳の痴ほう症の妹さんと一緒に暮らすお兄さんに、2人で入れる東京都内の有料老人ホームへの入居を勧めているところです」。東京・渋谷で社会福祉士事務所「ねこのて」の看板を掲げる戸田由美子さん。
 妹の後見人となり、デイサービスに通うようにも段取りした。今春から週2回行き始めて、表情が明るくなった。それでも、痴ほうが進み在宅生活が難しくなってきたため、戸田さんは、妹の資産に見合う老人ホームを探し出してきた。
 後見業務を担うため、日本社会福祉士会は「ぱあとなあ」という内部組織を44都道府県で立ち上げ、地域の会員が家裁に後見人の登録をしている。だが、社会福祉士のほとんどは、福祉施設や病院、あるいは自治体で職員となっているため、なかなか後見活動に専念できない。
 「有給休暇を取ったり、本来業務が休みの土日曜に利用者と会わざるを得ない」(ぱあとなあ会員の後見人)
 組織を飛び出して独立する社会福祉士も登場してきた。戸田さんもその一人。施設で暮らす高齢者を含め11人の後見人となっている。
 市役所職員から転身し、3年前に東京都武蔵村山市の自宅で事務所を開設した久保田光雄さんは、「利用者が20人ほどになれば自立できる」と意気込む。こうした独立型社会福祉士は「ケアマネジャー兼務者を含めても約150人」(日本社会福祉士会)と少ない。
 福祉サービスに伴う権利擁護は行政の責任でもある。山田さんが活動するNPO法人は、地元の多治見市など3市1町から今年度940万円で後見活動の事業委託を受けた。自治体がNPO法人と連携し、社会福祉士の経済的基盤を支える先進事例といえる。(編集委員 浅川澄一)

法的根拠ない家族の契約多く

 後見人が必要な人は痴ほう高齢者だけでも数十万人いるが、現在利用者は3万人。「同様の制度を始めたドイツでは100万人を超えた。日本の立ち遅れは明らかだ」(新井誠筑波大大学院教授)
 全国の特養で、入所契約書などの利用者欄に、判断力を喪失した痴ほう高齢者に代わって、後見人でない家族が署名している。「法的根拠がなく、私文書偽造にあたる」と法曹関係者は一様に指摘する。こうした「違法行為」を避けるためのものが成年後見制度だが、ほとんど機能していない。
 家族は一体という観念が、契約意識を抑え込んでいる。厚労省が介護保険の実施直前に「現在の施設入居者には新たな契約は不要」と、後見制度に後ろ向きの見解を出したことも一因。
 一方、昨年から介護保険と同様に契約制となった障害者サービスでは、施設が入所者の集団後見に乗り出し始めた。
 知的障害者の入所施設、愛心園(兵庫県上郡町)では、一昨年秋から家裁へ後見人の申し立てを始め、68人の入所者のうち現在64人に後見人が付いている。「重度の障害者には医師の鑑定が不要だった」と、福田和臣園長は地元家裁の協力姿勢を評価する。
 出雲サンホームとふたば園(共に島根県出雲市)でも、多くの入居者に後見人を付けた。社会福祉士や弁護士など専門職が作る「出雲成年後見センター」が音頭を取って実現させた。
 障害者の親が高齢化し、将来への不安が強いことも、必要性を実感させている。
[日本経済新聞]

 

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